2016年11月26日土曜日

ACS ON CAMPUSがストラスブールで開かれました

アメリカ化学会のACS ON CAMPUSというイベントが今日ストラスブール大学で開催されました.

最初にキーノート講演として,1987年のノーベル化学賞受賞者でストラスブール大学教授ジャン・マリー・レーン教授が「Adaptive chemistry」について講演.

ネットワークとは,一つに何かを与えると,別のものがそれを知ること.
 Information processing in a 3D adaptive network 
空の上で何かが起こると,その結果が地上に現れる...

などなど,初めて知ることばかりのとても刺激的な1時間でした.(言葉足らずで私の受けた感動をきちんとお伝えできず,恐縮です)

教授は Evolution of Chemistryを molecular  → supramolecular  →  organized → dynamic  → adaptive(現在)とし,今後は complex matter へと向かうと締めくくりました.

また,JACS編集長のペーター・スタング博士からは論文作成のコツに関するレクチャー ”Top Ten Tips for Preparing a Successful Manuscript"がありました.

一言で言えば,投稿する前に見直し,見直し,(最低10回はリライトし),見直す.
それに尽きるようです.

実際,JACSのエディター7名の方が受け取る論文数は3万本.
そのうちの90%にはエラーがあるそうです.

なんと,最初にチェックするのは「ページ番号がきちんと振ってあるか?」ですって!

そのほかにも,

仲間内の仕事だけをリファレンスに入れてはいけない,
研究結果だけを書くのではなく,重要なのは「考察」,
たとえ自分の論文からであっても,コピペはいけない.
(例えば実験項などを丸々コピペする人がけっこういるとのことで,Self-Plagiarism(自己盗用)は今大変な問題になっているそうです)

などなど.

言われてみれば本当にその通りのことばかり.

最後に会場から「英語はどの程度重要か?」という質問が出ました.

それに対する回答は,

「英語は極めて重要.英語が母国語ではない人には同情するが,例えば,Nativeに原稿を読んでもらう,Nativeが周りにいなければ,有料のサービス(翻訳やチェック)を利用するなどして英語の質を高めて欲しい.」でした.

ところで,無料でダウンロードできる ACS Style Guide というのがあるそうです.私も今まで利用したことがなかったので,今度見てみようと思います.

それにしてもアメリカ化学会の会員は現在15万7千人だそうです!巨大組織ですね.

会場には学生がいっぱい!

学食のランチ



2016年10月29日土曜日

熱すると縮む性質(負の熱膨張率)を持つ物質を使って3Dプリンターで作り出した美しい構造:Science News Weekly Alertより

普通の物質は熱を加えると膨張し体積が増えますが,反対に熱すると体積が減る(負の熱膨張率を持つ)物質もあります.例えば氷.氷が溶けて水になると,その体積が減るのは誰でもご存知の通り.

負の熱膨張(negative thermal expansion)を持つ物質があれば,それを使って様々な物質の熱膨張をコントロールすることができるので,最近この物質に関する研究が盛んに行われています.

温めると縮む"負の熱膨張材料”をつくる

Science (AAAS)の今週のNewsで紹介されているのは,ミリメートルオーダーの微小構造.
外側を銅を含有する硬い物質で組み上げ,内側をポリマーを含有する伸縮性のある物質で組み上げたこの構造物は熱を加えると内側に潰れます.そして銅の含有量を変えることで,縮む度合いもコントロール可能だとのこと.

熱膨張性の物質と組み合わせることで,温度により体積が変化しないものを作ることができるので,今後は人工衛星に搭載するカメラの寿命や歯の白い充填材の持ちも良くなることが期待できるだろうと,記事は締めくくっています.

3Dプリンターで作り出した構造

2016年9月22日木曜日

緩歩動物のたんぱく質がヒトDNAの放射線耐性を向上させるというお話:Natureより

Tardigrade protein helps human DNA withstand radiation

9月20日付のNature(オンライン)の記事のご紹介です.

Natureの記事を読む

Tardigrade(緩歩動物)はwater bear(クマムシ)とも呼ばれ,ずんぐりとした,けれど,顕微鏡でしか見えないほどのちっちゃな生物です.

記事によれば「芋虫とハダカデバネズミの合いの子のように見える」この微小生物は実はすごい能力を持っていて,真空中や放射線の飛び交う宇宙空間のような極限状態にも耐えることができる.(*注)2016年9月20日付のNature Communicationsに発表されたのは「クマムシ固有のタンパク質がヒト培養細胞の放射線耐性を向上させる」という新発見でした.

Nature Communicationsの論文を読む

.......Kunieda and his colleagues discovered that a protein known as Dsup prevented the animal's DNA from breaking under the stress of radiation and desiccation.

......国枝らは,クマムシのDNAが放射能や乾燥のストレスから切断するのを防いでいるのは,Dsupというタンパク質であることを発見した.

(*注)これについては2007年に興味深い研究が発表されています.2種類の緩歩動物(オニクマムシとRichtersius coronifer)乾眠状態にし,宇宙ステーションのラボで10日間,放射能,真空,低温といった宇宙の極限状態に置いたところ,オニクマムシが3匹生き残ったとの事.また紫外線の波長をフィルター(280nm以下と400nm以上)したところ,宇宙を生き延びたオニクマムシが産んだ卵は宇宙の真空や紫外線といった条件下に置かれなかったオニクマムシの卵と同様に孵化したのでした.

オリジナルの記事を読む


2016年8月5日金曜日

癌をやっつける「カミカゼ」バクテリアのお話

Scientific Americanの記事によれば癌を殺す薬を積み込んだ「カミカゼ」バクテリアが癌の深層部を攻撃するという研究が進んでいるそうです.

Kamikaze Bacteria Attack Deep Tumors with Deadly Carbo

Scientific Americanの記事を読む

抗がん剤を産生し,自爆するように遺伝子操作されたサルモネラ菌を患者に経口投与すると,サルモネラ菌は腫瘍の内部に入り込み,増殖しながら抗がん剤を産生しますが,ある数以上に増えると自爆装置が働いて分解し,内部に溜め込んだ抗がん剤が放出されるという仕組みです.

カミカゼバクテリア単独では化学療法以上の効果は見られなかったそうですが,化学療法と組み合わせると転移性肝臓癌の大きさが縮小,平均余命も50%増加したとのこと(マウスを用いた実験).

自爆テロの報道でカミカゼ(フランス語の発音だとカミカズって聞こえる)という語を聞くことが多くなり,悲しい思いをしていましたが,こんな「カミカゼ」なら大歓迎.

化学療法が不得意な腫瘍の奥深くに侵入して癌をやっつけてくれる.

もっとそんなカミカゼバクテリアの出現に期待したいと思います.

2016年7月14日木曜日

クラークの三法則

今日も「赤外分光30講」のTea Timeから面白いトピックをご紹介します.

アーサー・クラークといえば映画「2001年宇宙の旅」の原作者としてご存知の方も多いと思いますが,そのクラークが定義した「クラークの三法則」という法則があるそうです.

第一法則:高名だが年配の科学者が「それは可能である」といった場合,その主張はほぼ間違いない.また「それは不可能である」といった場合には,その主張はまず間違っている.

第二法則:可能性の限界をはかる唯一の方法は,不可能であるとされることまでやってみることである.

第三法則:十分に発達した科学技術は,魔法と見分けがつかない.

第二法則と第三法則は納得ですね.特に第三法則は,ハリーポッターを読んでいる時にしばしば感じたことでした.

ところで,第一法則の「その主張はまず間違っている」というのが,とても興味深いのですが,これもまた真実だそうです.というのも,19世紀に活躍したフランスの社会学者,哲学者,天文解説者のオーギュスト・コントは生前「天体の化学的組成は,我々地上の人間には永遠に知ることができない」と喝破したそうなのですが,彼の没後わずか2年でこれが覆されました.分光分析法を創始したハイデルベルク大学のブンゼンとキルヒホッフによって,宇宙の彼方の恒星の元素分布が細かくわかるようになったのです.

それでは,ここでちょっと英作文の時間.
上の第一,第二,第三法則を英語で表現すると?


答えはこちら


単語帳

first law :  第一法則
distinguished : 有名な,著名な,高名な
elderly: 年配の
state that ~ : 〜と述べる
probably:  おそらく,多分,十中八九(perhaps や maybeよりも確信度が高い)
discover: 〜であることを知る(悟る)
the possible: 可能性
venture into: 〜をやってみる
a little way: 少し
past them: それを超えて(themはthe limitsを指す)
sufficiently: 十分に
advanced: 進んだ,高い水準に達した
indistinguishable from ~: 〜と区別できない

2016年7月12日火曜日

赤外線の発見

最後の更新からあっという間に1年!

すっかりご無沙汰いたしましたが,先月フランス語の学校を卒業し,宿題に追われた(?!)学生生活にもピリオドを打ちましたので,ブログを再開いたします.

さて,皆さんは 赤外線の存在にいつ誰が気づいたのか,ご存知ですか?

実は天王星の発見者として有名な,ウィリアム・ハーシェル(Sir Frederick william Herschel)が 1800年にプリズムと温度計を使って赤外線を見出したのです.ニュートンにならって太陽光をプリズムで分解したハーシェルは,青よりも黄,黄よりも赤の光の温度が高いこと,そして赤色の外側の暗い場所の温度がさらに高いこと,つまり目には見えないある種の光(赤外線)が存在することに気づいたのでした.

この実験の様子を,カリフォルニア工科大学が簡単な英語と写真で解説しています.

カルテックの記事を読む

” ...Herschel was interested in measuring the amount of heat in each color. To do this he used thermometers with blackened bulbs and measured the temperature of the different colors of the spectrum. He noticed that the temperature increased from the blue to the red part of the spectrum. Then he placed a thermometer just past the red part of the spectrum in a region where there was no visible light and found that the temperature there was even higher. Herschel realized that there must be another type of light which we cannot see in this region. This light was called infrared.”

告白すると,これまで赤外線がどのようにして発見されたのか,全く知りませんでした.
白色光を分解して得られる虹の7色のそれぞれの温度を測定するなんて,着眼点が素晴らしいですね!

このエピソードを知ったきっかけは,3月に発売された「赤外分光30講」(山崎昶 著 朝倉書店).IRスペクトルは私が大学生だった頃(もう40年前のことです!)から今に至るまで,機器分析の重要な手法ですが,実は,私には有機化学の学生実験でIRを使って混合物の分析をするのが本当に大変だった,という苦い思いがあるのです.(;  ;)

今回,山崎先生の「やさしい化学30講」に取り上げられたので,当時を思い出しながら,私も今改めて赤外分光の復習中です.

山崎先生ならではのエピソードや薀蓄の溢れたこのご本.赤外の勉強を始めたばかりの学生さんのみならず,化学に興味のある一般の方や高校の先生方にとってもきっとすごく参考になると思います.書店で見かけたら,是非一度お手にとってご覧ください.