2017年7月21日金曜日

インスリンを鼻腔にスプレーすると食べ物が美味しそうに見えなくなる!

今日配信された「NATURE COMMUNICATIONS 2017年7月号」に面白い記事がありました.

鼻腔にインスリン(またはプラセボ)をスプレーしてから食べ物の写真を見せ,どれくらい美味しそうに見えるかを尋ねると,インスリンに対する感受性の高い人たちは,インスリンを投与後,食品を以前より魅力的に感じなくなるというのです.

機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で撮像すると,食事や食品と関連する報酬を処理する脳領域の活動も低下しており,脳内報酬もインスリンの投与によって影響を受けていることがわかりました.

一方インスリンに抵抗性のある人の場合にはこのような結果は見られませんでした.

英文の記事(Nature Communications/Neuroscience:Insulin changes the brain's response to food)の最後は次のように終わっています.

"The observation that this effect does not happen in insulin-resistant individuals may be one of the reasons that it is harder for them to resist appealing foods."

(インスリンに抵抗性のある人たちが美味しそうな食事を我慢できないのは,この作用によるのかもしれません.)


Nature Communications は日本語と英語で読むことができます.

さらに原著論文(Central insulin modulates food valuation via mesolimbic pathways)にもアクセスすることができます.

原著論文を読む

Nature Communicationsは毎月1回無料で配信されています.
登録は下記のサイトから.

https://www.natureasia.com/secure/ja-jp/register



2017年2月7日火曜日

LSDの謎が解けた!

2017年1月26日付の60 -second scienceのタイトルは「LSD's Long, Strange Trip Explained」(LSDの長い奇妙なトリップの謎が解けた)

60-second scienceの音声を聞く

幻覚を起こさせる薬の中でも強力な作用を持つLSDはなぜごく少量で作用が長時間持続するのかが長年の謎だったのですが,このたび,セロトニン受容体とLSDを混ぜ合わせて得られた結晶をX線により構造解析をしたところ,LSDはセロトニン受容体と共に「蓋」のような構造を作り上げ,一度中に入った後,内側からこの蓋を閉めているということがわかったとのこと.この論文はCell誌に発表されました.

論文を読む

これにより,なぜLSDがごく少量で長時間強力な作用を発現するか,という謎が解けたとのこと.
今回の「蓋」構造の発見により,将来,少量で長時間の作用を発揮する新しい抗鬱剤の開発が可能になりそうです.

2017年1月18日水曜日

60 Second-Scienceがビデオに!

新年おめでとうございます.
本年もよろしくお願い致します.

今日は60 second-scienceのビデオバージョンのご紹介です.

ビデオを見る

家の中のVOCs(volatile organic compounds)を室内インテリアでもある緑の植物が吸収してくれる,というお話.以前は音声だけでしたが,素敵なビデオになりました.

ビデオを見ながら音声を聞くと理解が格段に高まりますね.

今日も最後にオチがありましたが,聞き取れましたか?














答えは:truly green solution 本当に環境にやさしい解決法.「green」が環境にやさしいという意味と緑の植物の両方にかけてあるのですね!

2016年11月26日土曜日

ACS ON CAMPUSがストラスブールで開かれました

アメリカ化学会のACS ON CAMPUSというイベントが今日ストラスブール大学で開催されました.

最初にキーノート講演として,1987年のノーベル化学賞受賞者でストラスブール大学教授ジャン・マリー・レーン教授が「Adaptive chemistry」について講演.

ネットワークとは,一つに何かを与えると,別のものがそれを知ること.
 Information processing in a 3D adaptive network 
空の上で何かが起こると,その結果が地上に現れる...

などなど,初めて知ることばかりのとても刺激的な1時間でした.(言葉足らずで私の受けた感動をきちんとお伝えできず,恐縮です)

教授は Evolution of Chemistryを molecular  → supramolecular  →  organized → dynamic  → adaptive(現在)とし,今後は complex matter へと向かうと締めくくりました.

また,JACS編集長のペーター・スタング博士からは論文作成のコツに関するレクチャー ”Top Ten Tips for Preparing a Successful Manuscript"がありました.

一言で言えば,投稿する前に見直し,見直し,(最低10回はリライトし),見直す.
それに尽きるようです.

実際,JACSのエディター7名の方が受け取る論文数は3万本.
そのうちの90%にはエラーがあるそうです.

なんと,最初にチェックするのは「ページ番号がきちんと振ってあるか?」ですって!

そのほかにも,

仲間内の仕事だけをリファレンスに入れてはいけない,
研究結果だけを書くのではなく,重要なのは「考察」,
たとえ自分の論文からであっても,コピペはいけない.
(例えば実験項などを丸々コピペする人がけっこういるとのことで,Self-Plagiarism(自己盗用)は今大変な問題になっているそうです)

などなど.

言われてみれば本当にその通りのことばかり.

最後に会場から「英語はどの程度重要か?」という質問が出ました.

それに対する回答は,

「英語は極めて重要.英語が母国語ではない人には同情するが,例えば,Nativeに原稿を読んでもらう,Nativeが周りにいなければ,有料のサービス(翻訳やチェック)を利用するなどして英語の質を高めて欲しい.」でした.

ところで,無料でダウンロードできる ACS Style Guide というのがあるそうです.私も今まで利用したことがなかったので,今度見てみようと思います.

それにしてもアメリカ化学会の会員は現在15万7千人だそうです!巨大組織ですね.

会場には学生がいっぱい!

学食のランチ



2016年10月29日土曜日

熱すると縮む性質(負の熱膨張率)を持つ物質を使って3Dプリンターで作り出した美しい構造:Science News Weekly Alertより

普通の物質は熱を加えると膨張し体積が増えますが,反対に熱すると体積が減る(負の熱膨張率を持つ)物質もあります.例えば氷.氷が溶けて水になると,その体積が減るのは誰でもご存知の通り.

負の熱膨張(negative thermal expansion)を持つ物質があれば,それを使って様々な物質の熱膨張をコントロールすることができるので,最近この物質に関する研究が盛んに行われています.

温めると縮む"負の熱膨張材料”をつくる

Science (AAAS)の今週のNewsで紹介されているのは,ミリメートルオーダーの微小構造.
外側を銅を含有する硬い物質で組み上げ,内側をポリマーを含有する伸縮性のある物質で組み上げたこの構造物は熱を加えると内側に潰れます.そして銅の含有量を変えることで,縮む度合いもコントロール可能だとのこと.

熱膨張性の物質と組み合わせることで,温度により体積が変化しないものを作ることができるので,今後は人工衛星に搭載するカメラの寿命や歯の白い充填材の持ちも良くなることが期待できるだろうと,記事は締めくくっています.

3Dプリンターで作り出した構造

2016年9月22日木曜日

緩歩動物のたんぱく質がヒトDNAの放射線耐性を向上させるというお話:Natureより

Tardigrade protein helps human DNA withstand radiation

9月20日付のNature(オンライン)の記事のご紹介です.

Natureの記事を読む

Tardigrade(緩歩動物)はwater bear(クマムシ)とも呼ばれ,ずんぐりとした,けれど,顕微鏡でしか見えないほどのちっちゃな生物です.

記事によれば「芋虫とハダカデバネズミの合いの子のように見える」この微小生物は実はすごい能力を持っていて,真空中や放射線の飛び交う宇宙空間のような極限状態にも耐えることができる.(*注)2016年9月20日付のNature Communicationsに発表されたのは「クマムシ固有のタンパク質がヒト培養細胞の放射線耐性を向上させる」という新発見でした.

Nature Communicationsの論文を読む

.......Kunieda and his colleagues discovered that a protein known as Dsup prevented the animal's DNA from breaking under the stress of radiation and desiccation.

......国枝らは,クマムシのDNAが放射能や乾燥のストレスから切断するのを防いでいるのは,Dsupというタンパク質であることを発見した.

(*注)これについては2007年に興味深い研究が発表されています.2種類の緩歩動物(オニクマムシとRichtersius coronifer)を乾眠状態にし,宇宙ステーションのラボで10日間,放射能,真空,低温といった宇宙の極限状態に置いたところ,オニクマムシが3匹生き残ったとの事.また紫外線の波長をフィルター(280nm以下と400nm以上)したところ,宇宙を生き延びたオニクマムシが産んだ卵は宇宙の真空や紫外線といった条件下に置かれなかったオニクマムシの卵と同様に孵化したのでした.

オリジナルの記事を読む


2016年8月5日金曜日

癌をやっつける「カミカゼ」バクテリアのお話

Scientific Americanの記事によれば癌を殺す薬を積み込んだ「カミカゼ」バクテリアが癌の深層部を攻撃するという研究が進んでいるそうです.

Kamikaze Bacteria Attack Deep Tumors with Deadly Carbo

Scientific Americanの記事を読む

抗がん剤を産生し,自爆するように遺伝子操作されたサルモネラ菌を患者に経口投与すると,サルモネラ菌は腫瘍の内部に入り込み,増殖しながら抗がん剤を産生しますが,ある数以上に増えると自爆装置が働いて分解し,内部に溜め込んだ抗がん剤が放出されるという仕組みです.

カミカゼバクテリア単独では化学療法以上の効果は見られなかったそうですが,化学療法と組み合わせると転移性肝臓癌の大きさが縮小,平均余命も50%増加したとのこと(マウスを用いた実験).

自爆テロの報道でカミカゼ(フランス語の発音だとカミカズって聞こえる)という語を聞くことが多くなり,悲しい思いをしていましたが,こんな「カミカゼ」なら大歓迎.

化学療法が不得意な腫瘍の奥深くに侵入して癌をやっつけてくれる.

もっとそんなカミカゼバクテリアの出現に期待したいと思います.