2018年8月22日水曜日

蟻の世界には生まれつき,「遊び蟻」と「働き蟻」が存在するのか?


Credit : Rob Felt, Georgia Tech
蟻の世界には生まれつき,「遊び蟻」と「働き蟻」が存在するのでしょうか?

このほどサイエンス誌に発表された研究によれば,答えは「ノー」です.

論文のアブストラクトを読む

上の写真はこの研究のために美しく彩色されたヒアリ(アカヒアリ:fire ant)です.

彼らは地面に巣穴(トンネル)を掘るのですが,トンネルは細く,2匹がかろうじてすれちがえるほどの幅しかありません.

ヒアリを一匹づつ区別できるようにその体の一部に色を塗り,彼らが細いトンネルを掘るようすを詳しく調べると,仕事の70%を全体の30%のアリが行っていて,残りのアリたちは遊んでいることがわかりました.

全体の1/4のアリはトンネルに一度も入ることすらなく,残りはトンネルに入っても土を掘り出したりせずにそのまま出てきてしまうのです.

さらに「働き蟻」を5匹つまみ出してしまうと,なんとびっくり,これまで「遊び蟻」だったアリがすぐに彼らの代わりに働き始めたのです.

どうやら生まれつき「遊び蟻」と「働き蟻」という区別があるのではなく,トンネルを掘る作業がスムーズに運ぶように,労働を分担している,というのが真相のようです.

なぜなら,たくさんのアリが一度に狭いトンネルに入り込めば,トンネルが溢れ,彼らはにっちもさっちもいかなくなってしまうでしょう.

さらに,アリの巣穴堀りをコンピュータでシュミレートしてみると,最も効果的な穴掘をした画面の上のアリたちは,生きたアリたちと同様の行動を見せたのでした.

この研究は今後災害時に活躍するロボット(瓦礫の中から生き残りの人々を探す)や体内で診断や投薬などの働きをするナノロボットなど,複数のロボットが協力して働かなくてはならない場面に役立つことでしょう.

60-Second Scienceを聞く

2018年8月19日日曜日

またゾウの話と言われそうですが...なぜゾウはガンにならないのか?

最近ゾウの話題が続いていますが(7月24日のブログ「ゾウと平和に共存するために利用した意外な昆虫」),今日はゾウの持っている遺伝子について.

60年から70年の寿命を持つゾウ.

寿命が長い動物ほどガンにかかる確率が増えるのですが,ゾウはほとんどガンにならないめずらしい動物なのです.

科学者たちは長年,ゾウの秘密を探ってきました.というのも,それがわかれば私たち人間のガンの治療に役立てることができるかもしれないからです.

このほどシカゴ大学の研究者らは,ゾウがガンにかかる率が少ないのは,DNAの損傷が起こった時に,それを修復するのではなく,前がん状態の細胞を殺してしまうからだということを発見しました.それを行っているのは,白血病抑制因子6(leukemia inhibitory factor 6) という遺伝子だったのです.

英文の記事を読む

2018年8月18日土曜日

トランスフォーマー:超分子錯体の場合

金属を含む超分子錯体の中では,有機リガンド分子が金属原子の周りに自己集合し,大きさも形も様々な分子のカゴを作り上げます.

この錯体の形は,中心の金属やそれを取り囲むリガンドを色々変えることによって変更することができるのですが,研究者たちはまだ思い通りのデザインの分子を作り上げるのに苦労しています.

先ごろ発表された研究では,化学的に刺激を加えることにより,四面体 → らせん → プリズム と形を変える超分子錯体が合成されました.

錯体の図(英文の記事付き)を見る

JACSの論文を読む

2018年8月17日金曜日

ゲノム解析でコアラの謎に迫る(ビデオ)

1日の大半を眠って過ごすコアラ.
このユニークな動物のこれまでわかっていなかった謎がゲノム解析により解明されました.

ユーカリの葉だけを食べて生きているコアラですが,このユーカリは毒性があるので,コアラの真似をしたら,ほとんどの哺乳類は死んでしまうでしょう.

では,なぜコアラはユーカリを食べても平気なのか?
ゲノムを調べたところその鍵はCYP2C遺伝子とTAS2R遺伝子にありました.

CYP2C遺伝子がユーカリの毒を分解するのを助け,TAS2R遺伝子のおかげでコアラはユーカリの葉の中でも一番毒素の少ないものを選ぶことができるのです.

そのほか,免疫システムについても新しい知見が得られたので,将来のクラミジアワクチンの開発につながるでしょう.

ゲノム解析は,コアラの理解にとどまらず,今後彼らがますます健康で,幸せに,のんびりと生きていくために役立つことでしょう.

ビデオを見る

2018年8月14日火曜日

カンタン(tree cricket)は鳴き声をもっと響かせるために何をしているか?

日中はまだまだ暑いものの,夜になり,コオロギを始めとする虫の声が聞こえてくると急に涼しさを感じますね.

さて,夏の終わりから晩秋にかけて涼やかな声を聞かせてくれるカンタン(tree cricket)にまつわるクイズを一つ.


Q カンタンは自分の鳴き声をより大きく,遠くまで届かせるために,何をしているのでしょうか?

1)夜は他の虫たちも鳴くので,他の虫が鳴かないとき,例えば昼間,に鳴く.
2)音を調節する「音響バッフル」を作成し,それを使って鳴き声を大きくする.
3)音が反響する空間(木のうろなど)で鳴く.

60-Second Scienceを聞く
































解答)2の 「音を調節する「音響バッフル」を作成し,それを使って鳴き声を大きくする.」が正解.葉っぱに穴を開け,体を半分差し込んで鳴くと,羽の前側から出てくる音が,羽の後ろ側から出てくる音と干渉しないため,音が大きくなる,ということでした.
この「穴の開いた葉」(音響バッフル)を作成して,身にまとうカンタンについては,論文が発表されています.Tree cricket baffles are manufactured tools

2018年8月7日火曜日

危険を知らせるさえずり(警戒声)は鳥ごとに違うけれど...

人間の世界と同様,鳥の世界にもその種類ごとに異なる言語があり,お互いに似ている言語もあれば,同じ内容を伝えているのに,まるっきり違って聞こえる言語もあります.

さて,そんな鳥の世界でも,危険を知らせるさえずり(alarm call)に関しては,他の鳥の警戒声も理解できる鳥がいることがこれまでに知られていました.

そこで,どのようにして他の鳥の言葉を学ぶのかを調べるために,ブリストル大学の行動生態学の教授らはオーストラリアに住む「fairy wren」(ルリオーストラリアムシクイ)を対象に,次のような実験をしたのです.

まずこれまでに存在していなかった警戒声をコンピュータで合成します.

それを鳥に聞かせます. (当然,鳥は何の反応も示しません.)

合成した警戒声と,すでに鳥が知っている他の鳥の警戒声とを同時に聞かせ(トレーニング),合成した警戒声を鳥に「これは警戒声だよ」と,教え込みます.

トレーニングを繰り返した後で,もう一度合成した警戒声だけを鳥に聞かせると,鳥はこれが警戒声だと理解して行動したのです. お見事!

実際に合成した警戒声や様々な鳥の警戒声はこちらから(英語のナレーション付き)