2017年8月3日木曜日

新しい生体用接着剤のヒントはナメクジの粘液

一般になめくじは,体から粘液(mucus)を分泌しますが,ある種のなめくじが分泌する粘液はとても接着力が強いことで注目を浴びていました.

この分泌液の研究から,生体用の新しい強力合成接着剤が開発されました.

組織接着剤(tissue adhesive)は,健康な組織に与える影響が少ないため,これまで使われていた縫合糸や外科用ホチキスに代わるものとして期待されています.

ただ従来のものは細胞毒性(cytotoxic)がある,接着力が弱い,あるいは水分を含む環境では使用できない,などの欠点がありました.

このほど新しく発表された接着剤は血液などで濡れていても,形が凸凹していても,そして動くものに対しても,強力に接着できるため,傷口の包帯(wound dressings)や組織修復(tissue repair)などに活躍しそうです.

サイエンスのアブストラクトを読む

今回の研究の対象になったナメクジ「ダスキー・アリオン(学名 Arion subfuscus)」

(上記の写真は撮影Erik Veldhuis氏,編集Tom Meijer氏によるものです)

2017年8月2日水曜日

鳥のように鳴くイモムシ!

私たちの耳に心地良い美しい鳥の鳴き声には,実は song (さえずり)とcall (地鳴き)の2種類があり,song は主にオスが歌う愛の歌,call はオスもメスも行う,仲間同士のコミュニケーションのためのものです.

ところで,鳥のように鳴くことができるイモムシがいるって,ご存知でしたか?

今日の60-Second Scienceに登場するのは,そんなウォルナット・スフィンクス・モスの幼虫です.

60-Second Scienceを聞く

これまでの研究では,イモムシがこの音を出すのは鳥のクチバシでつつかれたとき,だとされてきました.

イモムシは体をギュッと縮めて,気門から空気を押し出し,この音を作り出すのです.

でも,この音,アメリカコガラが仲間に警戒を呼び掛ける「地鳴き」にそっくり!

そこで,ワシントン大学の生物学者らはこの音をスピーカーで流して餌場に集まる鳥に聞かせてみたのです.

すると鳥たちはみんな逃げ出してしばらくの間戻ってこなかったとのこと.

この研究は7月18日〜21日,合衆国のオマハで開かれたInternational Symposium on Acoustic Communication by Animals(動物による音響コミュニケーション国際シンポジウム)で報告されたものです.

襲われたときの断末魔の音ではなく,身を守るためにこの音を出す能力が存在しているのだ,という発見に勇気付けられました.

自然の素晴らしさにあらためて脱帽!


単語リスト

walnut sphinx caterpillar ウォルナット・スフィンクス・モス(蛾)の幼虫
black-capped chickadee アメリカコガラ
spiracles          気門
nuthatch          ゴジュウカラ
house finch        メキシコマシコ

2017年8月1日火曜日

日焼け止めが多発性硬化症の症状を軽減?!

多発性硬化症(multiple sclerosis; MS)とは,脳や脊髄,視神経のあちこちに病巣ができ,様々な神経症状が再発と寛解を繰り返す難病です.

米国のウィスコンシン大学の研究者らは,紫外線の一部に多発性硬化症の症状を軽減する効果があるだろうという仮説を立てました.

これを実験で確かめるために,紫外線照射実験を行う際,一部のマウスには紫外線をブロックする日焼け止めを塗りました.

ところが,日焼け止めを塗ったマウスでは症状がぶり返すだろうという予想に反して,日焼け止めを塗って紫外線を照射したマウスでも30日にわたり,症状が抑えられたのです.

びっくりした研究者たちがさらに調べると,紫外線を照射しなくても,単に日焼け止めを塗っただけでこの効果があったのこと!

そこで色々なブランドの日焼け止めを試したところ,この効果はサリチル酸エステルを含有している日焼け止めだけに見られたのでした.

この作用の背景にどのような機構が存在しているのか,まだ詳細はわかっていないものの,おそらくサリチル酸エステルが有するシクロオキシゲナーゼ阻害作用が関係しているのだろうとのこと.

このことから新しい薬の開発が進むかどうかは別として,引き続き,波長300〜315nmのUVBの持つ作用についての研究は進められる予定です.

(出典:アメリカ化学会発行 C&EN DEGITAL MAGAZINE 7月31日号)

2017年7月31日月曜日

鳥肌が立つ音楽と涙が溢れる音楽を科学する

「Two types of peak emotional responses to music: The psychophysiology of chills and tears」と題する論文が発表されています.(Nature Human Behaviour)

音楽を聴いて感動するときの反応,鳥肌が立つ(ゾクゾクする思い)と涙が溢れる(胸がいっぱいになる),について精神生理学的に考察したもの.

両方に共通するのは,快感を覚えることと呼吸が深くなる事.

異なるのは,鳥肌がその音楽から喜びを感じるときも,悲しみを感じるときも生じるのに対して, 涙は悲しみを感じる音楽だけから生じること.

鳥肌が立つときは,皮膚電位と主観的覚醒が増加し,涙が溢れるときは,心拍数は増大するが,呼吸数が減少する.

涙を流させる音楽には,悲しみから生まれる快感を与えつつ,心を落ち着かせる効果がある...

コンサートで,深く感動し思わず涙が流れる時,心臓はドキドキしているのに,呼吸は深く落ち着いて,心が洗われる気持ちになることがよくあります.

そしてなぜか普段はすっかり忘れている,昔の出来事が急に思い出の中に蘇ってくる...

音楽には本当に不思議な力がありますね.

Nature Human Behaviourの要約(日本語/英語)はこちらから
 
原著論文にチャレンジ!







2017年7月30日日曜日

ピーコックベゴニアが美しい青い葉を持っているわけ

日陰の植物はその青い(玉虫色に光る)葉を利用して日光が極めて少ない環境に適応していることがわかりました.
マレーシアの熱帯雨林に育つ「Begonia pavonina」(ピーコックベゴニア)は表面に存在するイリドプラストと呼ばれる葉緑体のために,その葉が美しい青色に輝いているベゴニアです.
イリドプラストは通常の葉緑体とは異なり,極めて規則的な内部構造をしています.通常,葉緑体が光合成をするとき,太陽の光はまずチラコイド膜に吸収されますが,ピーコックベゴニアでは3~4個のチラコイドの積み重ね(フォトニック結晶類似の構造)が波長430~560 nmの光を強く反射するため、葉が青色の光沢を放っているのです.

このことは,森の中でベゴニアまで到達する光(緑〜赤色,つまり波長が約500~700 nm)の吸収効率が高まることを意味します.さらに,イリドプラストのフォトニック構造は,少ない日光からの光合成の効率を5~10%高めているのです.

この研究はNature Plants誌に発表されたもので,英語の要約と日本語の翻訳文がインターネットで公開されています.
原著論文のAbstractは下記のサイトから.

2017年7月29日土曜日

お金で「幸せ」は買えないって本当?もっと幸せになるお金の使い方

幸せはお金では買えない,とよく言います.      

幸せ ≠ 金

これはお金や物をたくさん持っていることが幸せではない,という意味かと思います. 
でも,忙しい現代において,時間のゆとりがたっぷりある事は幸せですよね.   

幸せ = たっぷり時間

さらに「時は金なり」というのもよく知られている格言.
            
時 = 金

では,これらを組み合わせると....?

幸せとは ➡️ 時間が増えること ➡️ 時間をお金で買えばいい

という結論.

なんだか騙されたみたい?と思っているそこのあなた.

実は,この結論,ハーバード・ビジネス・スクールのAshley Whillans さんたちによって,「Buying time promotes happiness」というタイトルの論文で,発表されているのです.

論文を読む

ところで,このネタは7月26日に配信された60-Second Science「To Buy Happiness, Spend Money on Saving Time」で見つけたものです.

60-Second Scienceを聞く

 

相変わらず, Karen Hopkin さんの「言葉遊び」(pun)は冴えまくっていますね.

".....These findings may be hard for some people to, well, buy:...."

もちろんこの「buy」の意味はここでは「買う」ではなくて....

解答はこの下に...


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解答:buyには「買う」の他に,「〜を受け入れる」「〜が真実であると信じる」,という意味があります.





2017年7月28日金曜日

ビデオ:木星の大赤斑(Great Red Spot)

今日ご紹介するビデオはNASAの木星探査機(ジュノー)からの映像です.

木星(Jupiter)の大赤斑(Great Red Spot)

木星で渦巻いているこの嵐のサイズは地球よりも大きい

ジュノーが送ってきた映像は2017年7月10日に撮影したものです.

この日,木星を周回しているジュノーは

 巨大な嵐のわずか5,600マイル(9000キロ)上空を飛びました

そしてかつてない極めて高解像度の写真撮影に成功しました

市民科学者はすでに写真のフィルタリングに着手しています

プロセッシング方法を変えると,色やテクスチャーが変わるので,嵐の理解に役立つ,豊かなディテールが得られるのです

ビデオを見る