2017年7月31日月曜日

鳥肌が立つ音楽と涙が溢れる音楽を科学する

「Two types of peak emotional responses to music: The psychophysiology of chills and tears」と題する論文が発表されています.(Nature Human Behaviour)

音楽を聴いて感動するときの反応,鳥肌が立つ(ゾクゾクする思い)と涙が溢れる(胸がいっぱいになる),について精神生理学的に考察したもの.

両方に共通するのは,快感を覚えることと呼吸が深くなる事.

異なるのは,鳥肌がその音楽から喜びを感じるときも,悲しみを感じるときも生じるのに対して, 涙は悲しみを感じる音楽だけから生じること.

鳥肌が立つときは,皮膚電位と主観的覚醒が増加し,涙が溢れるときは,心拍数は増大するが,呼吸数が減少する.

涙を流させる音楽には,悲しみから生まれる快感を与えつつ,心を落ち着かせる効果がある...

コンサートで,深く感動し思わず涙が流れる時,心臓はドキドキしているのに,呼吸は深く落ち着いて,心が洗われる気持ちになることがよくあります.

そしてなぜか普段はすっかり忘れている,昔の出来事が急に思い出の中に蘇ってくる...

音楽には本当に不思議な力がありますね.

Nature Human Behaviourの要約(日本語/英語)はこちらから
 
原著論文にチャレンジ!







2017年7月30日日曜日

ピーコックベゴニアが美しい青い葉を持っているわけ

日陰の植物はその青い(玉虫色に光る)葉を利用して日光が極めて少ない環境に適応していることがわかりました.
マレーシアの熱帯雨林に育つ「Begonia pavonina」(ピーコックベゴニア)は表面に存在するイリドプラストと呼ばれる葉緑体のために,その葉が美しい青色に輝いているベゴニアです.
イリドプラストは通常の葉緑体とは異なり,極めて規則的な内部構造をしています.通常,葉緑体が光合成をするとき,太陽の光はまずチラコイド膜に吸収されますが,ピーコックベゴニアでは3~4個のチラコイドの積み重ね(フォトニック結晶類似の構造)が波長430~560 nmの光を強く反射するため、葉が青色の光沢を放っているのです.

このことは,森の中でベゴニアまで到達する光(緑〜赤色,つまり波長が約500~700 nm)の吸収効率が高まることを意味します.さらに,イリドプラストのフォトニック構造は,少ない日光からの光合成の効率を5~10%高めているのです.

この研究はNature Plants誌に発表されたもので,英語の要約と日本語の翻訳文がインターネットで公開されています.
原著論文のAbstractは下記のサイトから.

2017年7月29日土曜日

お金で「幸せ」は買えないって本当?もっと幸せになるお金の使い方

幸せはお金では買えない,とよく言います.      

幸せ ≠ 金

これはお金や物をたくさん持っていることが幸せではない,という意味かと思います. 
でも,忙しい現代において,時間のゆとりがたっぷりある事は幸せですよね.   

幸せ  たっぷり時間

さらに「時は金なり」というのもよく知られている格言.
            
時 = 金

では,これらを組み合わせると....?

幸せとは ➡️ 時間が増えること ➡️ 時間をお金で買えばいい

という結論.

なんだか騙されたみたい?と思っているそこのあなた.

実は,この結論,ハーバード・ビジネス・スクールのAshley Whillans さんたちによって,「Buying time promotes happiness」というタイトルの論文で,発表されているのです.

論文を読む

ところで,このネタは7月26日に配信された60-Second Science「To Buy Happiness, Spend Money on Saving Time」で見つけたものです.

60-Second Scienceを聞く

 

相変わらず, Karen Hopkin さんの「言葉遊び」(pun)は冴えまくっていますね.

".....These findings may be hard for some people to, well, buy:...."

もちろんこの「buy」の意味はここでは「買う」ではなくて....

解答はこの下に...


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解答:buyには「買う」の他に,「〜を受け入れる」「〜が真実であると信じる」,という意味があります.





2017年7月28日金曜日

ビデオ:木星の大赤斑(Great Red Spot)

今日ご紹介するビデオはNASAの木星探査機(ジュノー)からの映像です.

木星(Jupiter)の大赤斑(Great Red Spot)

木星で渦巻いているこの嵐のサイズは地球よりも大きい

ジュノーが送ってきた映像は2017年7月10日に撮影したものです.

この日,木星を周回しているジュノーは

 巨大な嵐のわずか5,600マイル(9000キロ)上空を飛びました

そしてかつてない極めて高解像度の写真撮影に成功しました

市民科学者はすでに写真のフィルタリングに着手しています

プロセッシング方法を変えると,色やテクスチャーが変わるので,嵐の理解に役立つ,豊かなディテールが得られるのです

ビデオを見る 

2017年7月27日木曜日

バクテリアは抗生物質が生まれる前からそれに耐性を持っていた!

MRSA(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌)についてはご存知の方も多いことでしょう.

健康な人には何でもない菌ですが,免疫力が衰えた人には肺炎,敗血症を引き起こし,さらには死をもたらすこともある,代表的な院内感染の原因菌です.

ところで,この菌が「メシチリン耐性」を得たのは,メシチリンが広く使用されるようになったから,とこれまでは考えられていたのですが,それが覆される研究が発表されました.

何と,MRSAはメシチリンが世に出る前から存在していたというのです.

論文を読む

スコットランド,セント・アンドルーズ大学の分子微生物学者,マシュー・ホールデンらは冷凍保存された1960年代〜80年代のMRSA菌株のゲノムを分析し,この結果を得ました.

ゲノムを分析し,その進化の歴史を辿るこの手法を彼らは「ゲノム考古学(genomic archaeology)」と呼んでいます.

抗生物質と耐性菌との戦いは,ここに来て新たな局面を迎えたのかもしれません.

60-Second Scienceのポッドキャストを聞く

2017年7月26日水曜日

月の水:新たな発見!

今日届いたABC Scienceのニュースレターを見ていたら Top Science Stories の中に「Moon is wetter than we thought ... 」という見出しが.

あれれ?これどこかで聞いたことがあるフレーズ...

と,思って記憶を辿ると...

2009年に配信された「60-Second Science」(ポッドキャスト) "Water on the Moon" の中のフレーズでした.

アポロ宇宙船が持ち帰った「月の石」には水が含まれていなかったので,月には水がない,とされていたが,2009年のScience誌に発表された論文により,月の表面には水が存在することがわかった,という内容でした.

Water on the Moon を聞く

月の表面の50%を占める酸素(O2)と太陽風に含まれる水素(H2 )が反応して月の表面で水が生じる.

O2  +  2H2  → 2H2O

エンディングに「ムーン・リバー」がかかる,このおしゃれなポッドキャストは私のお気に入りの一つです.

しかしそれでもまだ,サハラ沙漠よりも水分含有量は少ない,とされていた月なのですが,今回,さらに大量の水が月に存在することがわかったそうです.

ABC Scienceによると

「月は思っていた以上に地球に似ている!将来月に移住するという夢も現実味を帯びてきた...」とのこと.

記事を読む

月の表面は明るいグレーの部分と暗いグレーの部分に分かれていますが,この黒っぽい部分は新たに火山性の溶岩が流れた部分.

そこには,月の内部(マグマ)由来の水(H2O)が大量に含まれているのです.

これまで資源がない,と思われていた月でしたが,水から酸素や水素を得ることができるので,将来の宇宙開発の基地として利用できる可能性も生まれてきました.

なんだかロマンチックですね.

早速今晩空を見上げて,月の表面のダークグレーの部分を確認してみたくなりました.




2017年7月25日火曜日

スマホからバッテリーが消える日!

気がつくとスマホのバッテリーが空になりかけている...

あちゃー...

スマホのない生活は考えられない毎日なのに,忘れずに充電をするのは案外面倒.

ところで,このほど,ワシントン大学の研究者, Shyamnath Gollakotaさんのチームがバッテリー不要の携帯を発表しました.

論文を読む

必要な電力は,わずか数マイクロワット.
これを無線基地局からの高周波信号や周辺の光から取り込みます.

プリント基板のような装置の使い方は簡単.
数字のついたボタンを押して電話をかけ,イヤホンで音声を聞き,マイクに向かってしゃべります.

まだ音質は悪く,基地局から15m以内でないと使用できませんが,スカイプ通話は無事成功しました.その様子がYoutubeにアップされています.

ビデオを見る

60-Second Scienceのインタビューで「フェースブックのチェックはできないの?」と突っ込まれたGollakotaさん「これは最初の一歩.いずれはできるようになる」と語っています.

60-second scienceを聞く

スマホからバッテリーが消える日がやってくるのが,今から楽しみです.

2017年7月24日月曜日

ビデオ:つる性植物をモデルにした新型ロボット!

今日もScientific Americanのサイトから面白いビデオをご紹介します.

このロボット,まるでつる性植物の巻きひげのように空に向かって伸びていきます.

内側に畳まれていた部分を広げながら,這うように進みます.

伸びること,全長72m.

摩擦が少ないので,込み入っている場所でも引っかからずにスイスイ.

ぴったりくっついているハエ取り紙の間をかき分け,

接着剤のタンクも突っ切り,

針のむしろにもめげず,

植物のように,光に向かって伸びていく,

内蔵カメラを使って進路を計算し,

本体を構成している小さなチャンバーが膨らんで,方向を変えるのです.

このようなロボットは災害時に活躍するでしょう.

フレキシブル   ➡️ せまいすき間もくねくねと通り抜けられる,

軽い       ➡️ 水に沈まず,その上を「歩ける」,

強い       ➡️ 重いもの(75kg!)を持ち上げることができる,

力を加えられる  ➡️ バルブを回せる

他のロボットならお手上げになってしまう「がれき」の間も,

なんなく通り抜けることができる.

ビデオを見る

昨日のヒアリといい,今日のつる性植物といい,自然をお手本に,新しいロボットが続々と登場しそうですね.

災害は忘れた頃にやってくる.

こんなロボットの研究がますます進めば,備えあれば憂いなし,ですね.

2017年7月23日日曜日

ビデオ:Fire Ants(ヒアリ)が集合して作り出す構造はエッフェル搭にそっくり!

今日は7月21日に配信された Scientific American の Daily Digest から面白いビデオをご紹介します.

たくさんのヒアリ(fire ant)が集まり,自分たちの体で,塔のような形を作り上げています.

彼らには,仲間の重みで自分が押しつぶされないための(荷重を均等に分散する)簡単なルールがあるのです.

ビデオを見る

彼らの振る舞いは,まるで固体のようだったり,流れる液体のようだったり,

高い塔を作っても,底辺にいる蟻を押しつぶすことはない.

中央の調整係のような存在はないのに,極めて高度に組織されている.

それはヒアリが一匹づつ,簡単なルールを守っているから.

その1 塔を作るときには,互いにしっかりつかみ合う.
その2 つぶれそうになったら,手を放す

その結果,弱い部分,荷重過多の部分は,はがれて落ち,
つりがね型のきれいな塔ができ,
それぞれの蟻にかかる荷重は均等.

まるでエッフェル塔を思わせる構造!

この塔のおかげで蟻たちは雨をしのぎ,
狭い場所から抜け出すことができ,
筏(いかだ)を作ることができる...

この発見は,小さなロボットのプログラミングに応用されている,とのことでした.

今ニュースになっている,ヒアリ.刺されると大変ですが,意外なところで,研究者の役に立っているのですね.

2017年7月22日土曜日

ハエの卵から死亡時刻を推定する!

2017年7月17日付の 60-Second Science はハエの卵から死亡時刻を推定する,法医学昆虫学者のお話.

60-Second Scienceを聞く

人が死ぬとその体は分解を始めますが,死後5分から15分で,最初に現れるのがハエなどの昆虫.そして体の腐敗が進むと,そのステージごとに,異なる虫がやってくるのだそうです.

このことを利用すると,昆虫学的データから死亡時刻が推定できるのですが,死体の周りが騒がしくなれば,ハエは逃げてしまいます.

そこで,産み付けられた卵を調べ,どのハエのものかを突き止めれば,死亡時刻を推定することができる.でも卵はどれも似たり寄ったりだし,成虫になるまで育てるのでは2,3週間かかってしまう.

そこで今回登場したのが化学的に卵を分析し,どのハエの卵なのかを短時間で突き止める方法です.この方法ならアルコール中で保存した卵からでも情報を得ることができる.

アメリカ合衆国,ニューヨーク州立大学の有機化学者らのチームが行ったこの研究(タイトルは"Species Identification of Necrophagous Insect Eggs Based on Amino Acid Profile Differences Revealed by Direct Analysis in Real Time-High Resolution Mass Spectrometry") はAnalytical Chemistry誌に発表されました.

論文を読む

単語リスト

forensic       法医学(犯罪科学)の
entomologist     昆虫学者
blowfly        クロバエ
species       種
turn up       現れる
decomposition    分解
chemical analysis  化学分析
investigate      調査/研究する

2017年7月21日金曜日

インスリンを鼻腔にスプレーすると食べ物が美味しそうに見えなくなる!

今日配信された「NATURE COMMUNICATIONS 2017年7月号」に面白い記事がありました.

鼻腔にインスリン(またはプラセボ)をスプレーしてから食べ物の写真を見せ,どれくらい美味しそうに見えるかを尋ねると,インスリンに対する感受性の高い人たちは,インスリンを投与後,食品を以前より魅力的に感じなくなるというのです.

機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で撮像すると,食事や食品と関連する報酬を処理する脳領域の活動も低下しており,脳内報酬もインスリンの投与によって影響を受けていることがわかりました.

一方インスリンに抵抗性のある人の場合にはこのような結果は見られませんでした.

英文の記事(Nature Communications/Neuroscience:Insulin changes the brain's response to food)の最後は次のように終わっています.

"The observation that this effect does not happen in insulin-resistant individuals may be one of the reasons that it is harder for them to resist appealing foods."

(インスリンに抵抗性のある人たちが美味しそうな食事を我慢できないのは,この作用によるのかもしれません.)


Nature Communications は日本語と英語で読むことができます.

さらに原著論文(Central insulin modulates food valuation via mesolimbic pathways)にもアクセスすることができます.

原著論文を読む

Nature Communicationsは毎月1回無料で配信されています.
登録は下記のサイトから.

https://www.natureasia.com/secure/ja-jp/register