2019年12月19日木曜日

モナリザはあなたを見ていなかった!

ルーブル博物館に展示されている「モナリザ」をご覧になったことがありますか?

絵の中のモナリザはじっとあなたを見つめ,あなたがその部屋のどこに立とうとも,彼女の視線はあなたを追ってくる....これは目の錯覚(optical illusion)なのですが「モナリザ効果」と呼ばれています.

ところが,ドイツの研究者らが実験により確かめたところ,モナリザはあなたを見つめてはいなかった(実はあなたの右15度の方向に視線を投げかけていた)ことがわかったのでした.

それでは,ここでクイズです.

1)24人の被験者が見つめたのは a)ルーブル博物館に展示してあるモナリザ
                   b)  コンピュータの画面に映し出したモナリザ

2)この実験によりわかったことは,
   a )そもそもモナリザ効果などというものは存在しない,
     b)モナリザの絵にはモナリザ効果はないが, モナリザ効果そのものは存在する.

答えはこのページの下に

60-Second Scienceを聞く

















解答)
1の答えは b 被験者たちはコンピュータスクリーン上で様々な大きさに拡大したモナリザの画像を見せられたのでした.

2の答えは  b モナリザ効果そのものは実在する(下記のリクルートポスターがその一例).今回の実験でわかったことは名前の由来になったモナリザにこの効果がないということでした.

(画像はWikipediaより)

2019年7月17日水曜日

毎週自然の中で2時間を過ごすことは体と心の健康に役立つ

自然に親しむことは体に良い,というのは大昔から知られている事実ですが,一体何時間,自然の中で過ごせば,心と体に良い影響があるのか?という質問に答えられる人(お医者さん)はいませんでした.

さて,このほどイギリスで2万人を対象に行われた調査からわかったことは

1週間に2時間,自然の中で過ごすと健康に良い ということ.

それ以下では効果が現れないそうです.
そしてこの2時間という数字は,年齢や性別,人種,職業,社会経済的レベルには関係なく共通で,さらには長期間病気の人や,障害を持つ人にもこのことは当てはまったのです.

この研究はScientific Reports誌に発表されました.論文(英語)を読む

では,ここでT/Fクイズをやってみましょう.
次の文が正しければTを間違っていたらFを記入してください.

1. 自然の中で過ごす2時間は,一度に2時間過ごしてもいいし,短い滞在を繰り返してトータルで2時間過ごしても良い.

2.研究者は調査をする前から,おそらく2時間位だろうと見当をつけていた.

3.2時間という理由について,研究者は医学的に根拠のある数字だと言っている.

解答はこの下に

60-second scienceを聞く





















1.T "People who spent at least that much time amid nature—either all at once or totaled over several shorter visits—were more likely to report good health and psychological well-being than those with no nature exposure. "

一度に取っても,数回に分けても良いということですね.

2. F "I have absolutely no idea. Really. We didn't have an a priori guess at what this would be, this threshold. It emerged. And I'd be lying if I said we predicted this. I don't know." 

これを予想していたと語ったら嘘になる.と言っています.

3.F   "While the findings are based on a tremendous number of people, White cautions that it’s really just a correlation. Nobody knows why or how nature has this benefit or even if the findings will stand up to more rigorous investigation"

多数の人を対象にした調査の結果であっても,今回の結果は単なる相関に過ぎず,何故,あるいは,どのように,自然が良い影響を与えているのかについてはわかっていない.さらに今回の知見が,さらに厳しい調査研究に耐えるかどうかもわからない.と言っています.


2019年3月30日土曜日

ブルース・リーも真っ青?砂漠に生息する忍者ネズミ

カンガルーネズミ対ガラガラヘビの対決.

砂漠で夜な夜な繰り広げられる死闘.軍配はどちらに?

LIVESCIENCEが提供するビデオの映像はとても衝撃的.

カンガルーネズミの素早さ,ジャンプする高さ,おまけに空中で方向を変えることまでできるなんて....

えぐい映像はないので,安心してご覧になれます.

さて,最後に登場する,イラストの忍者ネズミのセリフ,お分かりになりましたか?

ビデオを見る




















最後にカッコよくポーズを決めた忍者ネズミは「Bring it on ! Bruce Lee!」と言っていました.「かかってこい!ブルース・リー!」という感じでしょうか?でも,今ブルース・リーを知っている人はどれだけいるのだろうか?この記事を書いた人は私の年代?とちょっと思ったことでした.

2019年3月23日土曜日

糖鎖研究から見えてきた,素晴らしい癌の治療法

ガン細胞を直接標的にするのではなく,患者自身の免疫細胞にアプローチすることでガンを治療する革命的な方法に対し,2018年のノーベル医学生理学賞が与えられました.

T細胞には過剰反応を防ぐためのブレーキタンパクが存在しますが,ガン細胞はこれを悪用して免疫から逃れようとするのです.免疫チェックポイント阻害剤はこのブレーキを解除し,T細胞を目覚めさせるものですが,これが効かないガンも存在します.

そこで現在,糖(糖鎖)をターゲットとする新しいタイプのチェックポイント阻害剤の研究が進んでいます.

糖鎖とは細胞の表面を覆っている糖の鎖のことです.

例えば,腫瘍の表面を覆っているシアル酸という糖鎖にSiglecsというタンパク質が結合すると,免疫細胞は眠ってしまいます.Siglecsは分子ブレーキとして働いているのです.
 例えて言えば,ガン細胞は糖鎖に身を隠している「羊の皮を被った狼」です.

そこで,ガン細胞表面の糖鎖からシアル酸を取り除けば,悪者の化けの皮が剥がれ,免疫細胞に悪者(ガン細胞)の正体が見えるようになる,というわけです.

原文の記事を読む

2019年3月21日木曜日

油の多い食餌は腸内細菌に悪影響を及ぼすという研究

脂っこい食事を摂りすぎると,お腹のバクテリアにも悪影響がおよぶかもしれない,というお話です.(2019年2月20日LIVESCIENCEからのトピック)

このほど中国で行われた研究では,200名を超える若く健康な成人の被験者に,油の少ない食事,適度に含む食事,油の多い食事を6か月食べてもらった結果,油の多い食事を6か月続けたグループは腸内細菌の量やそれらの細菌が作り出す化合物の量に「好ましくない変化」が生じたことがわかりました.長期的には二型糖尿病のような代謝性疾患にかかるリスクの増加につながるそうです.

腸内細菌と脂肪との関係については,これまでの研究から肥満にはある種の腸内細菌の欠乏が関与しているということがわかっていました.今回の研究では1日の摂取カロリーのうち20%を油脂から66%を炭水化物から取る(低脂ダイエット),30%を油脂から56%を炭水化物から取る(中脂ダイエット),40%を油脂から46%を炭水化物から取る(高脂ダイエット)を200名の若者に6か月続けてもらいました.

カロリー総量やタンパク質,食物繊維などの量は同じにし,実験の初めと終わりには被験者の血液と便を採取して調べました.

その結果, 低脂ダイエットの人々では6か月後にいわゆる善玉バクテリアが増えたのに対し高脂ダイエットの人々では善玉バクテリアの量はスタート時よりも減少していました.これらの善玉バクテリアが作り出す酪酸(一種の脂肪酸)は抗炎症性をもち,腸の細胞のエネルギー源となっているのです.

また,実験を続けるにしたがって,高脂ダイエットの人々では二型糖尿病に関係のあるバクテリアの量や体内の炎症を刺激すると考えられている長鎖脂肪酸の量が増えたのです.

この研究は,若い,健康な中国人を対象に行なわれたもので,すべての人に対して同様の結果が得られるかどうかはわかりませんが,最近若者の食事が西洋化しつつある(脂の量が増えている)日本の私たちにとってもこの研究結果は見逃せませんね.

さらに詳しくは,LIVESCIENCEの記事をご覧ください.

LIVESCIENCEの記事(英文)を読む

それにしても,ちょっと同情したのは,6か月油の多い食事をとらされた健康な男女の皆さん.早くヘルシーな食生活に戻ってくださいね!

2019年3月19日火曜日

日本化学会第99春季年会に参加しました

ここ数年,学会には参加していなかったので,久しぶりの年会はいろいろと楽しいことがありました.

まず感じたのは研究の流れはどんどん変わる,ということ.数年前にはなかったテーマがいろいろと並び,世の中は進んでいるのだ,と実感.

今は研究活動をしていない私ですが,たまには,熱い研究発表の場に身を置くのもとても刺激を受けていいものですね.(少し勉強して時代に追いつこう,という気持ちになりました.)

開催場所は神戸の甲南大学でした.初めて出かけたのですが,設備が最新で,とても綺麗なキャンパスでした.

中でも生協食堂は圧巻.500円でとても充実したメニューが並び,レシートにはその食事に含まれる栄養素やカロリーまで記載されていました.

以前,フランスのストラスブール大学の学食のメニューに感動したことがありましたが,こちらのメニューも全く引けを取りません.

ご参考までに私の食べたトンカツおろしセットの写真をアップします.
本当に美味しかった!(^ ^)


さて,こちらのキャンパスには他にも軽食を取れる場所がいくつかあるのですが,生協の建物の4FにはTSUTAYA BOOKSTOREがあり,美味しいコーヒーを飲みながら本を読んだりもできるのです.

早速出かけてみると,化学会開催を記念して「化学書フェア」が開かれていました.

そして,私の本を発見!


化学英語を勉強したい方,ぜひ手にとって見てください.

1月からすっかりご無沙汰していましたが,久しぶりのブログはまずは学会の感想から.


 

2019年1月20日日曜日

ブン ブン ブン 蜂が飛ぶ,蜜は ルン ルン ルン 甘くなる

ミツバチの羽音を聞いた花の蜜が甘くなる...

最近の研究で,ミツバチが近くにいることを知って,蜜をさらに甘くする花の存在が報告されました.

さて,多くの生物は「音」を利用して生き延びてきました.

狼の遠吠えが聞こえると,ウサギは逃げる.
雷が落ちた音が遠くで聞こえると,鹿は避難場所を探す.
鳥は歌を歌って,恋人を探す.

だから当然植物だって音を利用しているのでは?という素朴な疑問がこの研究の根底にありました.

考えてみれば,音というのは波なので,振動を受信できるなら,必ずしも哺乳類の耳のように「骨」や「毛」が組み合わさった複雑な器官がなくても音は感知できます.

そこで beach evening primrose(マツヨイ草)を,無音の状態,低周波,中周波,高周波の音,と蜂の羽音にさらした状態に置き,それぞれ,花の蜜に含まれる糖分の量を調べたのです.

マツヨイ草
すると,3分ほど蜂の羽音や低周波にさらすと,無音,中周波,高周波の時と比べ花の蜜に含まれる糖分量は12から20%へと増加したのでした.

つまり「蜂が近づいてくるのを聞いた」花は,その蜜を甘くしたのです.

この研究の論文は査読前の原稿として(preprint service),インターネット上で読むことができます.

論文を読む
 
今回の記事はSmithsonian.comSMARTNEWSからのご紹介です.

英文記事を読む

単語
cochlea (内耳の)蝸牛
ubiquitous いたるところに存在する

花がミツバチの羽音を聞いて,蜜を甘くするとは....

最近植物の持つ知られざる力についての研究が盛んです.

これまでに,本ブログでもトマトに関する面白い研究をご紹介しています.

2018年5月のブログ トマトには嗅覚があるのか?
2017年9月のブログ イモムシの共食いと病気とトマトの関係

2019年1月16日水曜日

光るマウスを作る?いえいえ真面目な遺伝子治療のお話.

今日ご紹介する60-second scienceは現在研究されている新しい遺伝子治療法についてなのですが,Christopher Intagliataさんの前振りがすごくオシャレ!

曰く,

私たちのゲノムは図書館(で借り出した本)のようなもの.
遺伝子はタンパク質を作るトリセツ.
本当の図書館と違うのは,私たちの本(ゲノム)を返却し,別のを借りることができないこと.

ところが,遺伝子治療により,この本をいわば改定することが,つまり新しいタンパク質を作り出すことが,できるようになった.

現在マウスを用いた試験が行われていますが,ホタルの発光酵素ルシフェラーゼを作る情報を載せたmRNAを使ったところ,このmRNAを吸い込んだマウスの肺が光りだした(ルシフェラーゼが作り出された)のでした.

もちろんこの実験の目的は,光るマウスを作ることではなく,cystic fibrosis(嚢胞性線維症)の患者(遺伝子変異により肺に粘り気の強い液(痰)がたまる病気)のための治療法として役立てることなのです.すでに臨床試験が始まっています.

さて,今回のポッドキャスト,最後の言葉あそびはお分かりになりましたか?
(解答はこの下に)

60-Second Scienceを聞く


















解答:Intagliataさんはポッドキャストを「inhalation genetic therapy could be an inspiration.」(吸入遺伝子治療は素晴らしい思いつきと言えるだろう)という表現で締めくくっていましたが,このinspirationには「素晴らしい思いつき」という意味のほかに「吸気」という意味があるのですね.




2019年1月13日日曜日

戦争で怪我をしたら,ウジムシを使って治そう,というお話

本日配信されたLiveEssentialsにはびっくりする記事が載っていました.

アメリカ合衆国は戦闘による怪我人を治療するために,近々「ウジムシ」を使用する予定だというのです.

ウジムシが送られる先は,シリア,イエメン,南スーダンなど.

怪我人の患部に乗せられたヒロズキンバエ(green bottle blowfly)の幼虫たちはすぐに仕事に取り掛かります.死んだ皮膚を食べ,殺菌性のある唾液を振りまいて,傷口を感染から守るのです.

奇妙な治療法に思えますが,実は,昔オーストラリアのアボリジニの人々も傷口の治療にウジムシを用いていました.また第一次世界大戦では,兵士たちも利用していた治療法だったのです.

英文の記事を読む