2017年9月30日土曜日

自然蒸発する水から再生可能なエネルギーを得る研究

今日はNature Communicationsに2017年9月26日付で発表(オンライン)された論文のご紹介です.

地球に到達する太陽エネルギーの半分は水の蒸発に使われているのですが,すでに水の蒸発を仕事に変換できることは明らかになっています.

水の蒸発により得られる電力は風力発電や太陽光発電によるものに匹敵する上,風力は風が,太陽光発電は太陽光が必要なのに比べ,水の蒸発は絶え間なく生じている,という利点があります.

「Potential for natural evaporation as a reliable renewable energy resource」(信頼出来る再生可能エネルギー源としての自然蒸発の可能性)と題したこの論文によれば,水の蒸発プロセスからは風力の3倍(電力密度)のエネルギーが回収できる可能性があるのです.

Nature Communicationsの解説(日本語/英語)を読む

2017年9月29日金曜日

ヌンチャクも扱える,ロボットアーム

古武術の武器であるヌンチャクをマスターするのは簡単ではありません.
が,科学者たちはロボットに基本的なヌンチャクの技を教え込むことに成功しました.

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このロボットハンドには独立して動く指と触覚センサーが備わっています.

そしてモーション・キャプチャー・グローブで制御することができます.

そして,ロボットアームに取り付けることができるのです.

技を教えるにあたり,まず技を解説したフローチャートをロボットに与えます.

次に先生が何度か技を実演し,それを自己評価します.

これらの情報をもとに,ロボットはその技が出来るようになるまで,練習を繰り返すのです.

ご心配なく,まだこのロボットとはお友達!

このようにして,ロボットは複雑でダイナミックな仕事を覚えていくことができます

車に内部部品をはめ込んだり,果物を摘んだりするだけでなく,

もっと複雑なヌンチャクの技だって...

ところで 安川電機は居合切りをするロボットを製作.Youtubeで映像を公開しています.

こちらはものすごい迫力!

YASKAWA BUSHIDO PROJECTを見る 






2017年9月28日木曜日

G1コンボイのように変形するオリガミロボット

今日は,G1コンボイ(トランスフォーマー)のように変形するオリガミロボットをご紹介します.

このロボットは変形すると,車輪や船,そしてグライダーにもなれます.

小さな金属キューブの周囲に,マイラー樹脂の薄いフィルムがオリガミのように畳まれ巻きついて,瞬く間にキューブは万能ロボットに変身するのです.

水に浸かると,金属フィルムは外れて,水に流されていき,ロボットはキューブに戻ります.

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このちっちゃなキューブは 実はオリガミ外骨格(exoskeleton)で変形するロボット

外骨格層が加わるとキューブは変形します

自動的に折りたたまれるこのシートには継ぎ目が設けられています

熱が加わると折りたたみ開始

このロボットは 歩ける 転がれる 滑空できる 船にもなる

水に浸かると外骨格は外れて溶けていきます

このロボットの位置は磁場で制御されています

いろいろなことができる複雑なロボットと比べ

このロボットは単純ですが,それでも様々なことができます

 



2017年9月27日水曜日

鳥の警戒声そっくりに鳴くイモムシのビデオ

8月2日のこのブログで鳥の鳴き声そっくりに鳴くイモムシ(ウォルナット・スフィンクス・モス)をご紹介しましたが,このほどその画像と音声がビデオになって登場しました.


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それにしても,葉っぱの裏のイモムシは本当に葉っぱと見分けがつかないほどそっくりですね.

イモムシの鳴き声がどれくらい彼を狙う鳥の警戒声(alert call)に似ているか,興味のある方は,次のポッドキャストをお聞きください.

60-Second Science を聞く

2017年9月26日火曜日

ブラジルの小さなカエルの驚くべき秘密

ブラジルの進化生物学者で爬虫両生類学者でもあるサンドラ・グット博士は「パンプキン・トードレット(pumpkin toadlet)」(Brachycéphales ephippium)の研究をしています.

このカエル(写真)は親指の爪ほどの大きさで,目がさめるようなオレンジ色.
捕食者や爬虫両生類学者に出会って怯えると,両手を振り回すという可愛らしさ.

ところでこのカエルも他のカエルと同様,メスを引き付けるために恋の歌を歌うのです.その歌は少しコオロギの鳴き声に似ています.

60-Second Scienceを聞く


パンプキン・トードレット Photo: Ariovaldo Giaretta

ところで,博士はこのカエルは耳が聞こえないらしいと気づきます.

そこで,カエルの歌を録音したものを聞かせて反応を調べたり,耳から脳まで,電気インパルスを辿ったり,さらには内耳を解剖したりと色々調べたところ,彼らには自らの声を聞くのに必要な器官が欠けていることがわかったのです.

ですから,オスの歌う歌はメスの耳には届かない.....

では,なぜ歌うのか?

博士の考えでは,

歌を歌う時に膨らむ喉こそが性的な信号であって,付随する音はおまけ,

あるいは,

進化の途中で,ディスプレー(外見)が十分役割を果たしてくれるので,歌を聴く能力を失ってしまった.

というのもこれは,派手な色をしている上に,手を振る動作などをする,とてもビジュアルなカエルだから.

ところで,研究者の中には「歌ってるってことは聞こえるってこと.いや,聞こえているはず.なぜテストなんかするの?」という人がいて,博士はその人達を説得し実験を行うのに苦労したとのこと.

今サイエンスではわかりきっていることをテストしようとはしない,と彼女は言います.

だから,今のところ,耳の聞こえないカエルは世界中でただこの種類だけだけれど,単に私たちが知らないだけで,他にもそういうカエルがいるのかもしれません.

当たり前だとみんなが思っていることを疑ってみる.
ちょっと哲学的ですね.

彼女の肩書きにはRがついているのかもしれません.

Evolutionary biologist(進化生物学者
Revolutionary biologist(革命的な生物学者)






2017年9月25日月曜日

クラゲは眠るのか?第2弾(ビデオ LIVE SCIENCEバージョン)

9月22日のブログでご紹介したサカサクラゲ(カシオペア)のお話しが新しいビデオで登場しました.

とても画像が綺麗なので,こちらもご紹介します.

ビデオを見る

これはサカサクラゲ,別名カシオペア.
1日の大半は,浅瀬の海底で,かさを開いたり閉じたり 
彼らには中枢神経系がない 
脳を持たない彼らにも眠りは訪れるようなのだ
夜になるとかさの開閉の回数は減り,刺激への応答も鈍くなる
この休眠状態からはすぐに回復できるが
眠りを奪われたクラゲは翌日動きが緩慢になる 
つまりクラゲは睡眠に対する基本的な要件を満たしているのだ
これは,中枢神経を持たない動物における眠りに似た状態が観察された初めての例である 
眠りはニューロンの最も単純なネットワークから進化したのかもしれない

2017年9月24日日曜日

ヒトの精子の中に潜むウィルス

今日のトピックはScience News Weekly Alertより.

原文を読む

ジカ熱デング熱などと同様に蚊を媒介する感染症で,その原因であるジカウィルスを持った蚊がヒトを吸血することにより感染が起こり,基本的にはヒトからヒトへの直接感染はないとされています.

しかし,先ごろ,このウィルスが精子中で6か月間生き続けることができること,また性的接触を通じた感染力も41日間保持されることがわかりました.

新しいメタ分析の結果,さらに,ヒトの精子中で生き続けることのできるウィルスはこのほかにも26種類ーエボラ熱,HIV(エイズ),B型肝炎,ヘルペスー存在する可能性があることもわかりました.

3800以上の論文をレビューしたところ,インフルエンザウィルスデング熱ウィルスなどはじめとする少なくとも11種類のウィルスが睾丸中で生存でき,精子中に存在する可能性も否定できないことが示されたのです.

これらのウィルスの存在は,受精率の減少や性病罹患率の増加などの深刻な結果を引き起こす可能性があり,

またウィルスの中には精子のDNAに突然変異を引き起こすものも存在するので,後の世代にウィルス誘導突然変異が伝わる可能性もあります.

先週発表された論文の中で,著者らはこれらのウィルスが性的接触によって感染を引き起こすのかどうか,厳密にはどのウィルスが精子の中でどれくらいの期間生存可能なのか等に関し,さらに研究を進めることが必要だと警告しています.

論文を読む

2017年9月23日土曜日

コバンザメをヒントに生まれたロボットには何ができる?

コバンザメ(Remora)は自然界の吸着カップ(suction cup)とも海のヒッチハイカーとも言われています.

例えばサメに出会うと,逃げ出すのではなく,サメに近寄って行き,頭頂部にある吸着盤(ディスク)を使ってサメの腹にくっついて身の安全を確保するのです.

コバンザメの吸着盤は背びれが変形したものですが,その仕組みの研究から,このほど「生体模倣(biomimetic)コバンザメ・ディスク」を持つロボットが生まれました.

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性能を試すために,ロボットをリモートコントロールできる潜水艦に搭載し,水中の物質(例えばプレキシガラスやサメ皮)に接着したところ,平均して4秒内に表面を捉え,ひきはがすまで,しっかりと接着していました.一度くっつくいたディスクを引き剥がすにはディスク自体の重さの実に340倍に相当する45kgもの力が必要でした.

ディスクは水中同様空中でも強い接着力を示します.

このロボット,将来の海中探査に力を発揮しそうです.

2017年9月22日金曜日

クラゲは眠るのか?

眠りは脳を休ませ,記憶を処理し,細胞から有害物質を取り除き,明日に備えるためにある,と私たちは考えています.

では,脳を持たないクラゲも眠るのでしょうか?

研究対象として選ばれたのはサカサクラゲ(upside-down jellyfish).浅い海の底で触手を上に向けてあまり動かずに生活している彼らは,他のクラゲとは異なり,体内に共生する藻から栄養分をもらっています.そして1秒に1回,ゆっくりと扇ぐようにかさをすぼめたり開いたりしながら,体の上に水の流れを作って餌のプランクトンを取り込み,老廃物を捨てているのです.

さて,カルフォルニア工科大学の大学院生たちは特製の水槽を作り,およそ1週間の間カメラで23匹のサカサクラゲ(カシオペア)の様子を観察しました.

すると昼間の間1秒に1回(つまり1分に60回)かさをすぼめているクラゲは,夜になるとその回数が1分に39回と減少することがわかりました.

これが「眠り」なのかを確かめるため,彼らはクラゲをタンクの底から水面まで持ち上げてから落としてみたのです.

すると夜のクラゲの応答は遅く,しばらくしてようやく目が覚めるといった風でしたが,その30秒後にまた持ち上げると,今度はすぐに泳いで底まで戻ったのです.

次の疑問は,人間と同じように,クラゲにも眠りが必要なのか?でした.
そこで,夜クラゲを眠らせないために6時間の間,あるいは12時間の間,20分ごとに水流を当ててみました.

すると翌朝のクラゲは,特に12時間睡眠を邪魔されたクラゲは,いつもより活動的ではなくなっていました.ちょうど睡眠時間が足りない人間の私たちのように.しかし普通に眠った翌日には完全に調子が回復したのです.

最後のテストはメラトニン(薬局で売っている睡眠薬)を与えるというものでした.クラゲは一発で眠ってしまったように見えました.

結論として,クラゲも「人間と同じように」眠るのだ,ということがわかったということです.

Scienceのビデオを見る

2017年9月21日木曜日

コウモリにとって,平らな金属板は「目に見えない」という報告

エコロケーションという言葉を聞いたことがありますか?

映画「ドリー」に出てきた白クジラが持っている「世界最高のメガネ」と言えばご存知の方も多いかもしれません.

クジラやコウモリにはこの能力があり,彼らは自ら音を出し,その反射を聞いて,周囲の情報をキャッチします.つまり,視覚ではなく聴覚(音)を使って世界を見ているのです.

さて,そんなコウモリにとって平らな金属板は,私たちにとっての透明なガラス板と同じで,反射した音が戻ってこないため「透明」に見えるのです.

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ちなみに,この実験で金属板にぶつかったコウモリたちは怪我をしていないそうですので,安心してくださいね.

2017年9月20日水曜日

ベンジャミン・フランクリンが発明した避雷針の先は尖っていた?それとも丸かった?

避雷針(lightning rod)というのはご存知の通り,高い建物の上にあって,建物を雷から保護する(落雷した時は,電気を地面へと誘導し,建物への損害を防ぐ)もの.

これを発明したのはアメリカ建国の父として有名なベンジャミン・フランクリンでした.

ところで,先が尖っている避雷針と,先の丸いものではどちらの方が優れているのでしょうか?

フランクリン自身は「針のように尖った」避雷針を好んだ,とユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのスティーブ・ジョーンズの著作「Revolutionary Science」に書かれています.

当時,北アメリカでは,尖った避雷針を使うか,先の丸いものを使うかは,自分の政治的な立場(王を支持するのか,反乱者を支持するのか)を示すものと解釈されました.

事実ジョージ3世は植民地の反乱に対する不快の念を表すため,バッキンガム宮殿の尖った構造物を丸みをもったものと置き換えたのです.

さらに王は王立協会に圧力をかけ,先端の丸い避雷針の方がフランクリンの尖った避雷針よりも優れていると認めるように迫りました.

それに対し,王立協会会長はこう答えたのでした.

さてここで質問です.会長はどのように答えたのでしょう.

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答え 「私はいつでも陛下のお望みを叶えるためにベストを尽くすつもりです.しかし私には自然の法則を変えることも,その力の影響を変えることもできません」


2017年9月19日火曜日

樹齢5000年,世界最古の樹木にも地球温暖化の影響

高山にはそれを超えると寒さのために樹木が生存できなくなる,樹木限界線(tree line)が存在します.

地球温暖化の影響で,暖かくなったため,この樹木限界線もゆっくりと移動しています.新しく生まれたこの土地を求めて,世界最古の樹木と言われるブリストルコーンパイン(bristlecone pine)にフレキシマツ(limber pine)というライバルが現れました.

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ブリストルコーンパイン(画像はPattern Picturesより)


さてここで問題です.
カリフォルニア大学デービス校の生態学者Brian Smithersさんはブリストルコーンパインのことをどのように言っていましたか?次の中から選んでください.

1)見事な芸術作品
2)ひどい盆栽
3)ハリーポッターに出てくる暴れ柳


















答え)2
彼は,「They look like the worst bonsai tree imaginable」(想像できる限りにおいて一番ひどい盆栽のように見える)と言っていましたね.

2017年9月18日月曜日

コンクリートの亀裂を防ぐ新しいレシピ

ハイウェイのコンクリートの亀裂の原因は冬に道路が凍結しないように散布する道路用塩(road salt)としてつかわれている塩化カルシウムだと言われています.

塩化カルシウムはコンクリートに含まれている水酸化カルシウムと反応し,オキシ塩化カルシウムという巨大な分子を生じ,それがコンクリート内部の圧力を高め,コンクリートの劣化が始まるのです.

解決法として新しいコンクリートミックスが提案されました.これにはフライアッシュ,シリカ・フューム,スラグといった石炭や製鉄産業からの安い剰余物質が利用されています.

従来のコンクリートで作った試料とこの新しいレシピによるコンクリートで作った試料を塩水に浸け,高感度のアコースティックセンサーでクラッキングの有無を調べ,また化学反応をモニターするため,これらの材料を流れる熱を追跡しました.

その結果フライアッシュやスラグなどの成分を含む新しいレシピによるコンクリートは1か月以上も十分もったのに比べ,通常のコンクリートは1週間で亀裂が生じて粉々になってしまったのでした.

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なお,この新しいレシピについてもっとお知りになりたい方は,セメントアンドコンクリートコンポジット誌に報告された論文をご覧ください.

論文を読む

2017年9月17日日曜日

メラニンから生まれた新染料は紫外線に当たっても色が褪せず生体適合性を持つ

構造色(structural color)は,虹色に輝くシャボン玉,クジャクの羽根やハチドリの翼などに見られるもので,光が物体の表面の微細な構造に当たって跳ね返るときに生まれます.

構造色は本質的に玉虫色(iridescent)(チラチラと光る)で,固定した色の色素をつくることは難しいのですが,研究者らは,合成したメラニンを特別なシリカの皮膜の中に埋め込むことにより,生体適合性を持つ(biocompatible)新しい構造色を生み出すことに成功しました.

メラニンをシリカ膜に埋め込み,この微小なシリカ粒子を水に沈めて油を加えると,水が分離し,微小粒子は集まってミクロな「スーパーボール」ができます.

油を除去して得られる粉末状の染料は,従来の色素と同様に使うことができる上,紫外線に当たっても色が褪せないのです.またシリカの厚みを調節すると,色を様々に変えることができます.

メラニンは私たちの皮膚に含まれている色素なので,この新しい染料には生体適合性があり,単なる衣料やペンキなどにとどまらず広い用途に使えるのです.化粧品や食品,そして刺青にも!

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2017年9月16日土曜日

てんとう虫の羽はまるで折り紙のように畳まれて...


てんとう虫は,歩く時には後翅(hindwings)は黒い点々のついた鞘ばね(elytra)の下に畳まれていますが,飛び立つ時には,鞘ばね(elytra)を開き,畳まれていた後翅を広げます.

そして着地すると羽はまた自然に畳まれていきます.この羽の折りたたみプロセスを見るために,研究者たちは鞘ばねの一部をプラスチックに変えて,中を覗くことに成功しました.

Z形を描いて折り畳まれる羽の様子はビデオに撮影され,その三次元構造はX線により明らかになりました.

太い翅脈(vein)がバネのように働いて,素早い展開を可能にし,硬直して飛行中の安定性を高めます.そして畳まれる時には蝶番のように折れ曲がるのです.

この虫の折り紙(insect origami)は折りたたみが必要な傘とか人工衛星にヒントを与えてくれそうです.

映像をビデオで見る

2017年9月15日金曜日

種の起源を書いたダーウィンがミミズを大好きだったわけ

「種の起源」で有名なダーウィンの最後の著作が『ミミズと土(ミミズの作用による肥沃土の形成及びミミズの習性の観察)』であることを知っている方は少ないでしょう.
実はダーウィンはミミズが大好きで,書斎にはミミズの入った土を入れた壷が置いてあったとか...

ところで,従来の畑を耕して行う農業から不耕起栽培(畑を耕さない栽培法) に変えると,10年後には畑のミミズの数が倍増する(つまり,耕すことによって減少していたミミズの数が元に戻る)という研究が報告されました.

ミミズは土壌の中に縦長の穴を掘り一生をその中で過ごします.夜になると地表に出てきてワラなどの食べ物を探し,それを穴の中に持って帰るのです.

畑を耕すと,ミミズはちょん切られ,あるいは,地表に掘り出されて鳥に見つかって食べられ,さらには,すみかの穴もめちゃめちゃにされる,など大きなダメージを受けます.

したがってしっかりと耕された畑ではミミズの数は半減してしまうのですが,耕すことをやめると,およそ10年後にはミミズの数は元のレベルにまで回復することがわかりました.

論文を読む

かつてダーウィンはその著作の中でこう述べました.

耕すことは最も古く,最も価値のある人類の発明だが,人類が存在するよりもはるかに昔から土地は常に耕されており,そして今も耕されているのだ,ミミズによって.

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2017年9月14日木曜日

イモムシの共食いと病気とトマトの関係

鱗翅目(lepidopteran)(蝶や蛾の仲間)の間でどのように病気が伝染していくかを調べていた研究者はイモムシの間にcannibalism(共食い)が行われているのを発見しました.

共食いには3つのメリットがあります.

その1)自分の体と同じ成分でできている同胞は栄養たっぷりの便利な食べものである.

その2)今後の人生における競争相手(食べ物を奪い合うライバル) が減る

その3)そもそも同じ土地に住んでいるから(同胞は)見つけやすい.

ところで病気のイモムシを食べたイモムシは病気になって死んでしまいます.

問)では,共食いは本当にイモムシにとって,プラスなのか?

答え)個々のレベル(病気のイモムシを食べたイモムシ)ではマイナス.でも,全体にとってはプラス(その集団から病気が排除されるから).

共食いと伝染病についての論文を読む

ところで,ここにトマトが登場すると,話はさらにややこしくなります.

というのも,トマトは自分の身を守るために,イモムシに共食いを誘発する化学物質を分泌することがわかったのです.

Nature ecology & evolutionの論文を読む

さて,ここに病気のイモムシが登場すると,結末は....どうなるでしょう?

1)共食いで病気のイモムシがいなくなり,イモムシもトマトもハッピー

それとも

2)共食いで病気のイモムシがいなくなり,イモムシはハッピーだがトマトは当てが外れる.














 答え)2)
   共食いで病気のイモムシがいなくなり,イモムシ全体はより健康に,つまり,より空腹になるから.(トマトはやっぱり食べられちゃうんですね...)

2017年9月13日水曜日

ミツバチが同じ花に通いつめるわけ...

ミツバチはpollinator(花粉を運ぶ動物)として有名です.
実は私は今までミツバチは様々な花の蜜を吸っているのだとばかり思っていたのですが,それはミツバチ全体を見たときの話.

個々のミツバチはどうやら同じ花に通いつめ(今日も明日も明後日も)ているようなのです.

そしてそれはとても理にかなっているのです.と言うのも,あるミツバチが今日はこの花,明日はあの花,と様々な花の蜜を吸っていたとするとどういうことが起こるでしょう?

Aと言う花の蜜を吸った(と同時にAという花の花粉を身につけた)ミツバチが翌日Bという花の蜜を吸うと,ミツバチがBに与える花粉はAのもの...つまりBは花粉を受粉しても結実しないわけです.

さて,ではどうしてミツバチは同じ花に通いつめることができるのでしょうか?

今回の研究で分かったことは,

1)花の色は香りと組み合わさって信号となり,ハチを引き寄せている
2)色と香りが組み合わさることで,様々な状況でもハチを引き寄せることができる強く安定した信号が生まれる,
3)これによって,ハチは同じ花に通いつめることができる

ABC Scienceの記事を読む

花もただ美しく,良い香りを漂わせているのではないんですね...自分の将来にとって有利になるハチが通いつめてくれるように,知恵を絞っている...

あ,なぜかまた,人間界を連想してしまいました...

2017年9月12日火曜日

オオカバマダラ(蝶)は絶滅の危機?!


オオカバマダラ 撮影 Bruce Marlin

Monarch butterflies(オオカバマダラ)は渡りをする蝶として有名ですが,そんな彼らが絶滅の危機に瀕しているというニュース!

1980年代初頭の蝶の数は1000万頭だったのですが,それが97%も減少し,現在はわずか30万頭になったという報告が!

このまま進めばオオカバマダラは86%の可能性で今後20年間に絶滅するだろうとのこと.

正確な原因は明らかにはなっていませんが,おそらく土地の利用が変化したこと,殺虫剤の使用がその原因だろうと研究者らは考えています.

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2017年9月11日月曜日

ハチも実はニコチンが大好き!

ニコチンを含む蜜とニコチンを含まない蜜を入れた造花を使って,どちらの花をマルハナバチ(bumblebee)が好むかを調べる実験を行ったところ,ニコチン入りの蜜を好むことがわかりました.

さらに,ハチたちは,蜜にニコチンが入っていると,より早く花の色を覚えること,蜜の量が少なくなってもニコチン入りの蜜を持つ花のところにやってくること,などもわかったのです.

人間同様,一度覚えると,ニコチンをやめるのはハチにとっても難しいようです.

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2017年9月10日日曜日

新しい糖尿病薬の持つ驚くべき作用

インスリン感受性を向上させる薬剤の登場により,現在では多くの患者が糖尿病をコントロールできるようになりました.

ところが,一つ大きな問題があるのです.それは,現在使用されている糖尿病の薬の多くには骨を生成する細胞の活性を弱める作用があるため,服薬している患者が骨折しやすく,また骨粗しょう症にかかりやすくなること.

ところで,糖尿病や肥満の治療薬に,骨を強化する効果があることがわかりました.

TNP(2,4,6−トリニトロフェノール,別名ピクリン酸)というこの化合物は,しばしば糖尿病や肥満の研究に用いられていますが,今回マウスを使った実験で,新しい骨の形成を促進することが示されました.

もしピクリン酸が人間に対しても同様に作用するのであれば,骨折後の骨の成長を促し,加齢や骨を使わないことから生じる骨の損失を防ぐこともできるかもしれません.

Science Newsを読む









2017年9月9日土曜日

デング熱から人々を守る意外な方法

デング熱やジカ熱など蚊が媒介する病気を,まさにその「蚊」を利用して防ぐ,という試みが行われています.

昆虫に共生する細菌ボルバキア(Wolbachia)はデング熱やジカ熱,チクングニヤ熱などを媒介するネッタイシマカ(Aedes aegypti)には通常見られないのですが,実験によりこの細菌を導入した蚊は人にウィルスを媒介する力を失うことがわかりました.

そこで,現在オーストラリアではボルバキアに感染した蚊を大量に自然に放出する試みが行われています.ボルバキアに感染する蚊が増えれば,たとえウィルスを持っている蚊に刺されても人間が発症することはないのです.

ただこの方法が有効となる条件として,広い領域に大量の蚊を放出する必要があり,それが少々問題になるかもしれません.

ポッドキャストを聞く

2017年9月8日金曜日

生き残るために,弱くなる...

というのは病原菌のお話.

今週の This Week in Scienceからのトピックです.

クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)には毎年多数の人々が感染し,その治療は年々難しくなってきています.

そこで,遺伝子工学を利用し,バクテリオシン(bacteriocin)からクロストリジウム・ディフィシレに特異的に作用する抗菌剤を作り,これに耐性を持つ株を分離したところ,細胞外皮の表面層に突然変異が生じていることがわかりました.

突然変異を起こしたミュータントは毒性が弱まっていたものの,ハムスターの腸に住み着くことができたのです.

つまり,自らをターゲットにした抗菌剤が存在することにより,その病原菌は,毒性を犠牲にしても生き延びようとするのだ,ということがわかったのでした.

This Week in Scienceを読む(12番目の記事です)


2017年9月7日木曜日

キャビアのDNA鑑定

キャビアは超高級グルメ食品の一つですが,特にシロチョウザメ(ベルーガ)のキャビアが最高とされています.

ところで外見からシロチョウザメの卵を見分けるのは専門家にも難しいのです.

シロチョウザメとその親類のコチョウザメの卵だけに特有のDNAの特徴を調べることによりそのほかの8種類のチョウザメの卵からこれらを区別することができるようになりました.

このテストに必要なのはたった1粒のキャビアだけ.
本物を正確に見分けることができるため,キャビアの価格が下支えされますが,そればかりではありません.

現在絶滅の危機に瀕しているベルーガの保存にも役立つのです.養殖中のベルーガとそのほかのチョウザメとの間には雑種が生まれていますが,養殖したベルーガを海に戻す前に,本物であるかどうかを確かめるのにも,この方法は利用できるからです.

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2017年9月6日水曜日

忘れることは退屈から逃れること...

今日の60-Second Scienceのテーマは短期記憶と退屈との間の関係について

このほど報告された研究によると,短期記憶がすぐれている人ほど飽きるのが早いとのこと.

論文を読む

飽きる速度は人によって大きく異なります.ラジオから流れるポップミュージックを例にとると,何度聞いても飽きずに,その曲をリクエストする人がいる一方で,もう聞き飽きたという人もたくさんいます.

ところで,この「飽きる」という感情は過去に消費したことがらの記憶と関係しているのではないか,と研究者らは考えました.試しにディナーを食べている人に,今日のお昼には何を食べたのかを答えさせると,普通よりも早く食べおわってしまうことがわかりました.

大学生を使って実験したところ短期記憶力と飽きるまでの時間には関係があることがわかりました。記憶力の良い学生ほど飽きるまでの時間が短かったのです.
詳しくはpodcastを聴きください。

ポッドキャストを聞く

ところで,最後にシンシアが決めたフレーズ,お分かりになりましたか?













forget about it はダブルミーニングで使われています.
一つは,熟語の「心配しないで,気にしないで」という意味で.
もう一つは,forgetの本来の意味で「忘れなさい」(そうすれば退屈な気持ちが消えるから)

















2017年9月5日火曜日

バーベキュー肉をビールに漬け込んで癌のリスクを減らそう!

バーベキューはお好きですか?
ジュージューと肉の焼ける音,香ばしい匂い,ああ,考えただけでヨダレが出てきそうです.

ところで,炭火で肉を焼く時に生じる多環芳香族炭化水素には発がん性があると言われて居るのですが,焼く前に肉をビールに漬け込むだけで,その量が減少するという研究が発表されました.

論文のアブストラクトを読む

実験で使われたのは,ポークチョップ,炭,そしてビール.

豚肉を1)普通のピルスナー,2)ノンアルコールのピルスナー,3)ダークエール,のいずれかに4時間漬け込んでから普通に炭火でグリルします.

焼けた肉に含まれている多環芳香族炭化水素(PAH)を調べたところ,ダークエールに漬け込んだ肉では,漬け込んでない肉に比べてPAH濃度が半分に減少していたのでした.

健康に関心のあるバーベキュー好きには嬉しい研究ですね!

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2017年9月4日月曜日

光を反射しない蛾の眼(モスアイ)構造を利用した未来のスマホ

蝶と蛾は良く似ているけれど,大きな違いは蝶が昼間行動するのに対し,蛾は夜行性だということ.

その理由は蛾の眼にあります.蛾の眼の表面には小さな突起がたくさんあり(モス(蛾)アイ(眼)構造)外から入ってくる光を何度も屈折させ,光を反射させないのです.

このモスアイ構造を利用した反射防止膜をスマホに利用しようという研究が進んでいます.

現在のスマホは周囲の明るさを感知するとスクリーンの輝度を高めて対応していますが,完全には補償できておらず,またバッテリーの消費も大きいのが欠点です.

モスアイ構造を利用した新しい反射防止膜はバッテリーを消費させないのです.

論文を読む

これが市販されるにはまだ2,3年かかりそうですが,その間にこの膜の持つもう一つの長所,しなやかさ(flexibility),を生かした研究がさらに進めば,将来はスマホ画面を曲げたり折ったりすることができるようになるかもしれません.


ポッドキャストを聞く

2017年9月3日日曜日

消える電子回路の使い道

普通は電子回路に耐水性を付与するものですが,今回の研究は,真逆を行っています.

水分に触れると分解するという電子回路のプロトタイプが開発されました.

このプリント基盤は,複合ポリマーフィルムの上に金属回路を乗せたもの.

水分に触れるとポリマーが酸に変わり,

電子回路を作っている銅とニッケルを溶かしてしまいます

水に濡れて数日後,基盤は完全に消えて無くなりました.

湿度を調節すれば,分解までの時間も長くしたり,短くしたりできるのです.

医療用インプラントへの応用も期待できます.

電子機器のリサイクルももっと簡単になるでしょう.

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2017年9月2日土曜日

海が暖かくなると,魚は大きくなる?それとも小さくなる?

地球温暖化により,海の生物にも影響が出ています.

サケの回遊が早まったり,プランクトンの生息域が移動したり,

ところで,海水の温度が上がると,魚の新陳代謝率が上がりますが,その結果は?

ここで質問です,その結果,未来の魚の大きさはどうなるのでしょうか?

1.新陳代謝が活発になった魚は急速に成長するので,体は大きくなる.

2.新陳代謝が活発になった魚はより大量の酸素が必要になるが,それが得られないために,体は小さくなる.

その答えは,60-Second-Scienceの中に!

60-Second-Scienceを聞く

















新陳代謝の速度が上がると代謝(化学反応)が加速されるため,より多くの酸素が必要になります.

それに対応して,魚のえらが大きくなるか?というと,ブリティッシュコロンビア大学の水産科学者の計算によると,えらの形は二次元に近いため,他の部位(三次元)の成長についていけない(その結果十分な酸素を供給することができない)だろうという結果になりました.

必要とする酸素量が増えると,それに対応するために,魚は小さくならなくてはならないだろうというのです.供給が減れば,需要も減らさなくてならないでしょう.

さらに水温が高くなるとその中に溶けている酸素の量も減るという事実もこれに拍車をかけるのです.

最後のセンテンス「small fry」について

fryは「稚魚」という意味ですが,small fryというと「雑魚(重要でない人々)」という意味になります.またsmall fryは「おちびちゃん(たち)」という意味でも使われます.(出典:ALC)


2017年9月1日金曜日

環境に合わせて食事の内容を変えることができないと生き延びられない

これはアルゼンチンの野鳥を対象に行われた研究です.

木々や,背の高い草,背の低い草,花の咲く草,など様々な植物の生えている場所で自由に餌が選べるとき,草の実を食べる小鳥たちのほとんどは苦労せずに十分な栄養とエネルギーを得ることができる大粒の草の実を選びます.

ところがそこで牛の放牧が始まると,草が減るため,小鳥たちは他に食べものを探さなくてはなりません.環境に合わせて食事の内容を変える鳥もいるのですが,そうでない鳥も.

しかし少なくなった草の実を探し回って,より多くのエネルギーを使い,その結果得られる食べものが少なければ,ついには飢え死にしてしまいます.子を産み,育てる余裕もなくなるでしょう.

アルゼンチンの研究者らは,放牧により草の実の減った地域の鳥が何を食べているかを調べました.そして草の実が多いところでは,草の実を食べるが,少なくなると,他のものを食べる柔軟な食生活を送る鳥たちと環境にかかわらず草の実を探し回る鳥たちがいることを発見しました.

後者の鳥たちが絶滅しないためには,例えば放牧地に植える草を鳥が好むものにしてあげることなどが挙げられますね.牛にとっては大して違いがないかもしれないけれど,美味しい実がなるかどうかは鳥にとって重要な問題なんですから.

さて,ではここで問題です.次の4種類の野鳥のうち,環境に合わせて食事の内容を変えることができる鳥はどれとどれ?(可愛い野鳥のさえずりもお聞きください.)
 
Diuca-Finch  ジュウカチョウ
Rufous-Collared Sparrow アカエリシトド
Many-Colored Chaco Finch オナガシトド
Ringed Warbling-Finch コバシマユシトド

60-Second Scienceを聞く(野鳥のさえずり付き)














答え ジュウカチョウとアカエリシトド

o reproduce or to care for their young.